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黄丹 翼さん  100期(陸上部)


 

福岡県屈指の人気寿司店「寿司つばさ」店主である黄丹翼さんは、当校100期の卒業生である。誰もが知る名店「天寿し」の流れを組む「寿司もり田」で修業を積み2012年に独立。今では半年以上先まで予約の取れない名店「寿司つばさ」に94・95期8名でお邪魔し、美味しいお寿司を頂きながらインタビューを敢行しました。

 

-まずは学生時代の思い出についてお聞かせ下さい。


 川中中学校から豊浦高校へ入学。部活動では陸上部で中距離を走っていました。高校卒業後は国立鹿屋体育大学に入学。陸上を続けていたのですが、大学3年の時、故障してしまい引退。何か陸上に代わる自己表現の場を求めていました。


-それで料理の世界へ?


 はい!もともと料理が好きでよくやってたし、モテたかったのでw。


-料理は何処で学ばれたのですか?


 大学時代アルバイトで働いていたフランス料理店に就職した後に、改めて確かな技術を学びたいと思い、地元に戻って「北九州調理師専門学校」に入りました。学校では日本料理・フランス料理等、一般的な技術を学んだのですが、その時に「寿司もり田」の親方も講師としていらしたのですよ。そのご縁でフランス料理をするのにもまず魚から勉強出来たらと思い、お店に入らせていただきました。「寿司もり田」で働くうちに寿司の世界の面白さに魅せられ、改めて寿司職人になるべく8年程お世話になりました。2012年に店を始めたときは、礼儀として親方のお店から離れたところで独立しました。3年後改めて親方にご挨拶し、2016年にここに移転したっていう流れですね。


-こんな美味しいお寿司は初めて頂きました!江戸前寿司ですか?


 いえ、「小倉前」です。「江戸前」というのは、煮たり漬けたり、締めたり寝かせたりという、いわゆる仕事をするもの。一方、小倉という土地は魚が新鮮で、普通の家庭でも新鮮な魚を買って食べることができます。関門ならではの新鮮な魚・食材に仕事をして皆さんに提供しています。自分の親方の時代は、関東の方でよく出される「蒸し鮑」を、お出ししたら昨日の残り物なのではないか、新鮮ではないから火を通したのではないかと言われたようです。一方で京都の和食のように素材の味を活かすようにすると、「何も仕事をしてない」ということになってしまう。鮮度の良い魚をお寿司に使うという土地の中で、独自に進化していったのが小倉のお寿司です。「天寿し」の親方は、よく「足し算のお寿司」とおっしゃるのですが、握り一貫にも創作の自由が利くところが特徴だと思います。



-下関~北九州では、近海で捕れる新鮮な魚介が手に入るという点が魅力の一つなのですね。「足し算のお寿司」とは、具体的に言うとどのようなものでしょうか?


 例えば、ヤリイカは波しぶきのような飾り包丁をして華やかに見せます。薬味をアクセントに使うところもあり、山葵だけでなく柚子胡椒や一味を足したり、上に野菜を乗せるといった仕事があります。また、野菜のお寿司をお出しするのですが、春は山菜、夏はオクラやミョウガ、秋は松茸など色々握ります。小倉には合馬(おうま)という筍の名産地があり、それを知っていただきたいということもあって、春にお出ししています。

 江戸前では、野菜の握りはタブーとされていて、基本あまり握りません。小倉前ではそういう縛りがないので、お寿司の中に季節を感じていただきたく、取り入れています。箸休めには、ガリと共にキュウリもお出ししています。これは「天寿し」の系列ならではですが、もともと北九州はキュウリのぬか漬けが有名で、料理の〆に出していました。一人で多くのお客様のお寿司を握る際、手持ち無沙汰になったお客様にお出ししたことから始まっています。


 魚の脂を通常はガリで口の中をさっぱりさせ、お茶で洗うものですが、刺激が強かったりもするので、きゅうりは海の脂を山の水で洗うという形ですね。食べ疲れしないし、お腹に溜まらないので、良く出来ているなと思います。



-かなり自由度があるのが小倉前ということですね。特にこだわりのある点をお聞かせください。


 少しでも季節を感じられるものを出そうとしています。お寿司や魚だけで季節感を出すとしたら色々と限界があるので、野菜を入れたつまみもなるべく作って、お寿司に向かうための序奏というイメージで構成しています。最初からお寿司を召し上がっていただくのも良いですが、飲みながら、ちょっとウォーミングアップをして、お寿司に入っていただく形を取っています。また、器も好きで色々と集めていますので、そちらも楽しんでいただけると嬉しいですね。

お寿司としては、小倉前の代名詞であるイカや、近海のその時期にしか出せないものを中心に握ります。関東からお越しの方には、北九州でしか食べられない…小倉ならではの創作系のお寿司を多めにお出ししたり、地元の方には少し九州風にアレンジした江戸前を、という風にお客様によってバランスを考えながらお出ししています。



-コースの〆のスイカジュース、美味しいですね!


 如何にコースの余韻を残しつつ〆に持っていくか迷いました。可愛がって頂いている京都の「割烹 千ひろ」さんというお店では、〆に生搾りのジュースをお出しになります。液体ならお腹一杯でも入るし、これは良いなと思い、当店でも同じスタイルを取り入れさせていただいています。夏はスイカ、秋は梨、冬はミカンなど、季節によって選んでいます。「自分のお店だけが良ければ」という時代から脱し、下関・北九州全体を盛り上げたいです。

 この地域を盛り上げていくために、今後も色々な料理人と交流を図って行きたいと思っています。コロナが収束したのでより活発に動いて、形にしたいですね。



-地産地消という言葉ではないのですが、現地でいただく重要性というものはかなり増していますし、元気な地方エリアはより注目されるようになると私も思います。


 「小倉にしかないものを作りたい」という話を「天寿し」の親方ともよく話しています。江戸前のお鮨は、東京で修業した方が全国にいらっしゃいます。陸上で言うと花形は箱根駅伝もある関東で、地方でどれだけ頑張っても、箱根で輝くのがスター。お寿司も同じ部分があって、やっぱり、銀座が一番だと私は思います。ただ、地方も頑張って盛り上げていきたいなとも思っています。

 嗜好品ですので明確な順列はないですが、「日本で一番」と言われるお寿司が北九州や地方にある、という話になったら格好良いと思います。もう一つ、お寿司に関しては、好きな光景があるんです。修業先でカウンターにお客様が親子で3代、4代と並ぶことがあり、とても印象的でした。当店では小さなお子様はお断りしているのですが、大きくなったお子さん、親御さん、そしてお祖父さんとお祖母さんという、カウンターを通して家族の思い出を作れるような暖かな場所を提供したいなと思いますね。



-関門地区はもちろん、全国の皆様に向けてメッセージをお願いします。


 下関・北九州は玄海灘や響灘、対馬や五島列島、瀬戸内海などの海に囲まれ、近海のものだけで握りが一通りできます。北九州から出ない希少な魚もありますし、野菜のお寿司という季節を感じる握りもあります。東京では食べられないお寿司を、ぜひ味わっていただきたいですね。小倉は下関からも電車で15分、博多から新幹線で15分ですし、是非、先輩達、後輩達も食べに来てください!


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